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 米国のシリコンパレーを震源地として、近年、イノベーション技法としての「デザイン思考」が流行しています。

 初代iPhoneが登場したのは2007年。もう9年も前のことです。それ以来、UberやAirbnbなどサービス面の革新はありましたが、プロダクトに関してはiPhoneに匹敵する大きなイノベーションは生まれていない気がします。

 今は、それまで、暗黙知のもと手探りで成功してきたイノベーションの方法を形式知にしようとしている段階なのかもしれません。「デザイン思考」の流行は、その流れの中に位置づけることもできそうです。

 最近になって、こうした「暗黙知→形式知」に新しいバージョンが続々と登場しています。米国の出版社HarperBusinessから、2016年6月に”Play Bigger: How Pirates, Dreamers, and Innovators Create and Dominate Markets"、翌7月には”Art Thinking: How to Carve Out Creative Space in a World of Schedules, Budgets, and Bosses”が出版されます。前者は「カテゴリー・デザイン」、後者は「アート思考」という新しい考え方を提唱。いずれも、デザイン思考を発展、あるいは補完するものといえます。

 『Play Bigger』で示された「カテゴリー・デザイン」とは、既存のカテゴリーの中で勝負するのではなく、市場に新たなカテゴリーをつくり出し、その中で覇者(カテゴリー・キング)になろうとする戦略です。グーグルは「検索エンジン」というカテゴリーを実質上つくり出し、今でも圧倒的シェアを誇っています。マイクロソフトは後追いで100億ドルを投資して「Bing」を投入しましたが、グーグルに勝ち目はありませんでした。

 同書では「カテゴリー・デザイン」を成功させるポイントや具体的な手順についても述べられています。それを読むと、カテゴリー・デザインは、デザイン思考と、芯の部分では共通しているようです。おそらく、どういう前提でデザイン思考というツールを使うかが問われているのではないでしょうか。既存のカテゴリーの中でデザイン思考を発揮するよりも、新しいカテゴリーを創出した方が効果的だということです。

 『Art Thinking』で提唱されている「アート思考」は、その名の通り、アーティスト(芸術家)の創造プロセスをビジネスに応用するものです。デザイン思考は、それに対してデザイナーの思考を応用するものといえます。

 アート思考では、今いるA地点からすでにあるB地点をめざすのではなく、B地点を新たに創造します。デザイン思考は、はっきりと見えているB地点に到達するまでのプロセスですから、まったく別物と考えた方がいいでしょう。

 同書は、デザイン思考を否定しているわけではありません。イノベーションの過程でアート思考とデザイン思考を組み合わせることを勧めています。例として「最初のiPhoneを生み出したのはアート思考、それを流通させ社会現象にしたのがデザイン思考」と説明されています。

 私たちも、こうしたさまざまな思考法、イノベーション技法を知り、その上でアレンジしたり、組み合わせたりするとよいのではないでしょうか。そのようにして自分に合った方法論を見つけ出すことこそが、実はもっとも有効な創造プロセスなのかもしれません。


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カテゴリー・デザイン戦略(原題:Play Bigger: How Pirates, Dreamers, and Innovators Create and Dominate Markets)(海外書籍:アメリカ)Amy Whitaker 著  (Harper Business)

アート思考』(原題:Art Thinking: How to Carve Out Creative Space in a World of Schedules, Budgets, and Bosses)(海外書籍:アメリカ)Al Ramadan / Dave Peterson / Christopher Lochhead / Kevin Maney 著(HarperBusiness)

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