2016年6月23日に行われた「EU(欧州連合)離脱」の是非を問うイギリスの国民投票は、僅差で「離脱派」の勝利という結果になりました。国論を真っ二つにし、投票日直前の6月16日には「残留派」の国会議員ジョー・コックスさんが凶弾に倒れるという衝撃的な事件も引き起こした喧々諤々の議論に、ひとまず終止符が打たれたことになります。  
 イギリスという欧州を代表する大国が離れることでEUは、経済規模の約15%、人口の12.5%近く、輸出のほぼ20%(EU域内の貿易除く)を失うことになります※。残った国々の間で、EU全体の制度や人員配分、予算などを再構築する必要にも迫られ、しばらく混乱は避けられないでしょう。事実上EUを牽引するドイツの動向も気になるところです。  

 2015年9月に邦訳が出版された『欧州解体』(東洋経済新報社)では、イギリスNo.1エコノミストと賞されるロジャー・ブートルさんが、イギリス離脱の可能性も踏まえながら、EUの根本的な問題点の数々を指摘し、大胆な改革、あるいは“解体”のシナリオを描いています。

 同書で興味深いのは、相対的に遅れをとっているとされるEU経済の改善のために「ユーロ圏の分割」を提案していることです。具体的には、ドイツを中心とする「北のユーロ」とイタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャなどの「南のユーロ」に分割するというもの。この場合、北と南、どちらが既存のユーロをやめ、新通貨を創設するかが重要になります。

 著者によれば、南の国々がユーロ圏を離脱する場合には新通貨は間違いなく弱くなり、ユーロ建ての巨額の負債がそのままになるため、全欧州的な銀行危機を引き起こす可能性があるということです。逆に北の国々が新通貨を創設する場合、ユーロは相対的に弱くなりますが、危機を避けることができます。著者は、北の国々の効果的な連携が難しいために直近の実現の可能性は低いものの、後者の「北の離脱」によるユーロ分割が「もっとも魅力的な解決策」としています。

 ユーロに参加しないなど、イギリスはもともとEUとは距離を置いていました。しかし、いよいよ「離脱」ということになれば、他のEU加盟国にも大きな影響を及ぼします。「絶えず緊密化する連合」をめざしてきたEUの根本理念を揺るがす可能性もあります。ますます不安定さが増すであろう欧州情勢からは、しばらく目が離せません。

※イギリスのEU内の経済規模等の割合の数字は『欧州解体』内の記載によります。


SERENDIPは厳選した良書を3,000字(A4用紙3枚程度)のダイジェストにして、メールとウェブサイトで提供するサービスです。 詳しい説明とお申し込みはこちらから。

●会員の方は下記リンクから今回ご紹介した本のSERENDIPダイジェストが読めます

欧州解体ロジャー・ブートル 著 町田 敦夫 訳 (東洋経済新報社)