原題:『The Churchill Factor : How One Man Made History』は2014年Hodder & Stoughtonより刊行、SERENDIPでは未邦訳の海外書籍枠で2016年2月に配信しました。(SERENDIP会員の方はこちらからダイジェストをご覧いただけます)
邦訳版は『チャーチル・ファクター』としてプレジデント社より2016年3月に刊行。 


 オリンピックの熱狂で忘れられがちではあったが、今年も終戦記念日はやってきた。71年前の8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、連合国に無条件降服したことを国民に発表。太平洋戦争ならびに第二次世界大戦は終結した。

 そのポツダム宣言は、当時の米国大統領ハリー・S・トルーマン、英国首相ウィンストン・チャーチル、中華民国国民政府主席・蒋介石の共同声明として発せられた。3人ともこの歴史の結節点において重い役割を果たした政治家だが、EU離脱をめぐる混乱の渦にある英国において、この頃のチャーチルの外交手腕やリーダーシップを見直すことには重要な意味があるのではないだろうか。

 2014年10月に英国で発刊された『The Churchill Factor : How One Man Made History』(邦訳『チャーチル・ファクター』プレジデント社)は、そんなチャーチルの人物像を構成するさまざまな要素(ファクター)を多数のエピソードを通じて描き出した著作だ。著者は、現英国外相で、当時はロンドン市長だったボリス・ジョンソン氏。そう、強烈な個性と数々の問題発言で知られる、人気の“お騒がせ男”である。ジョンソン氏が自らを重ね合わせて著したという同書は発刊後たちまち話題となった。プレジデント・オンラインの記事によれば、英国国会議員が選ぶ夏休み読書ランキングでも上位に食い込んでいるという。

 同書のエピソードでEU離脱問題に絡めて注目すべきなのは、チャーチルが1942年の時点で「(ロシアを除く)ヨーロッパ合衆国」を構想していたことだ。戦後の演説でも「英国はヨーロッパという家族の一員として、十分な役割を果たす必要がある」と発言している。その後、現在のEUにつながるヨーロッパ統一構想にチャーチルは加わっていないが、もしその時にチャーチルが発言力をもっていたならば、EUはまったく違った形態になり、今回の英国離脱騒動も起きなかったかもしれない。

 国民投票前、“残留派”だったキャメロン前首相は、演説でこのチャーチルによるヨーロッパ統合の構想を引き合いに出したという。だが、結果は誰もが知る通り“離脱派”の勝利。皮肉なことに、『Churchill Factor』の著者は“離脱派”のリーダー格だった。

 同書に描かれる数々の興味深いエピソードからは、チャーチルの魅力が、そのとてつもない「多面性」にあったことがうかがえる。“離脱派”のジョンソン氏が、ヨーロッパ統合を望んでいたチャーチルを心酔しているという矛盾も、彼もまた「多面性」をもっていたと解釈すれば納得できるのではないか。


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